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彼のお父さんは会社を破産させ、莫大な借金を残して失踪した。残された家族三人が気づいたときには、家も土地も他人のものになっていた。頼れる親戚はいなかった。父の友人だったはずの人たちも、まるでけがれたものを見るように彼らを避けるようになった。彼らは隣の市の安アパートに引越し、お母さんはスーパーのパートで一日中働くようになった。お姉さんは学校を辞めた。雪人は語りたがらないが、夜の仕事をするようになったと噂で聞く。
小学校を卒業すると同時に、父の仕事の都合で私の家族は引越しをした。隣の市に。追い払われるようにして彼が去っていったその土地に。
中学に通い始めて、私は彼が同じ学校に通っていることを知った。彼の姿を一年数ヶ月ぶりに見たとき、私は切実に願った。同姓同名の別人なら良かったのに、と。
借金に追われ、仕事に潰されそうになっていた家族に、彼をケアする余裕がなくなっていたのは仕方が無いことだったろう。彼は一人暮らし同然の生活で、自分の面倒は自分で見るしかなかった。
滅多にクリーニングにだすことのない制服は薄汚かった。制服の下のワイシャツも、汗じみて黄ばんだものをいつまでも着ていた。一人でカップラーメンばかり食べていたせいだろうか、ストレスのせいだろうか、彼の顔は不健康な色をし、一面にニキビに覆われていた。一言で言えば、彼はオゴエになっていたのだ。
子供の社会を生きることは、バラバラになりかけた筏で嵐の海を漂うようなものだ。誰の過失でなくても、ほんのささいなきっかけで、二度と浮き上がってこれない地獄に叩き込まれることになる。
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