オゴエと私と紙ピアノ

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 あんな奴の面倒を見させられて、大変だったね。友達はそう言って私に同情した。  彼は結局教室には帰らず、そのまま病院に行った。事件が、決定的な事件が起こったのは、その翌日のことだ。   『オゴエの姉チャンは売春フwww』  登校すると、教室の黒板にでかでかとそう書いてあった。とっさに教室を見渡し、彼の姿がまだないことに私は胸をなでおろした。そして、黒板の文字なんて見えてないというフリをして、自分の席についた。 ――本当かな、アレ ――知らねえの? 売れっ子ソープ嬢だってよ? ――私はキャバクラだって聞いたけど? ――同じだろ、そんなの ――ねえ、キャバクラって何?  ひそひそと、興味本位の無責任な言葉が飛び交っていた。私もその外にはいられなかった。話しかけられて、あたりさわりのない言葉を返す、自動運転のようにそんなことを続けながら私は、行動しろ、という胸の中から聞こえてくる声に激しく悩まされていた。  彼が登校してくるまえに、黒板の文字を消してしまわなければならない。     
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