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「え!私の好きなパンなので、望月先生のお好きなものをとられていいんですよ」
「いえ、櫻木さんがおっしゃったパンはどれも美味しそうですし」
気を遣いすぎだ。
なんだかいけないことをした気分。
「でも……」
どうしよう、唇を少し萎めると、彼は「“馬は馬方”といいますし」と笑った。
馬?何だそれは?
何のことを言っているのか理解できず、首を捻る。
一応確認するが、馬の形をしたパンはない。
子供の好む雪だるまとうさぎの形をしたパンは今あるけれど。
「“餅は餅屋”と同じ意味ですよ」
突然、郁ちゃんが私の耳元で囁く。
「え……」
それは知らなかった。
自分のバカさを確認してすぐ、望月先生にそれを知られたことを恥ずかしく思うも、彼は「どれにしようかなぁ」と、パンに夢中で気がついているか謎。
気がついていないといい、となんでもないフリをしてレジに向かう。
その際、厨房の直と視線がぶつかったが、彼はすぐに逸らした。
望月先生は悩んだ結果、バジルチーズとコーヒークリームを取りレジに並んだ。
「ありがとうございます」とレジ打ちをし、会計をする際、こっそりラスクを忍ばせる。
「こちらこそです。おすすめを教えてもらえてよかったです。次は別のパンを買いにきます」
「ありがとうございます。今日も理をよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。では」
望月先生は爽やかに去っていった。
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