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夕方、直から余ったクロワッサンをもらい、私は車で理に食べさせながら、塾へ向かっていた。
「やっぱり直君の作ったパンが美味しい」
「でしょう?」
「うん」
昨日、理にも新規オープンしたパン屋のパンを買っていったものの、不評だった。
かなり“アルマ”のパンを食べさせているので、彼も私と同じで“アルマ”贔屓だ。
「ねぇ、舞ちゃん」
「ん?」
「このパンはいつも買ってるの?」
もしかしてお金のことを気にしてる?
もしこの間、理がお金のことを聞いてこなければなんとも思わず返せた。
けれど戸惑う。
「直がくれるんだよ。ほら、前から余ったパン持ってきてたでしょう?」
「そっか」
理は納得してみせたけれど、何か思っていそうな感じがする。
「ねぇ、理」
「うん?」
「理は受験のことだけを考えるのよ。あとは健康面」
「うん……」
理の心が覗けたらいいのに……。
どうして人の心は透けていないのだろう。
「舞ちゃんは僕が私立の中学に行ったら嬉しい?」
「……嬉しいに決まってるよ。っていうか、行くんだよね?」
「うん」
理はまだ優羽ちゃんの言葉をひきずっている。
ーーどっしり構えて。
母の言葉が頭の中に浮かんだが笑顔で送り出すことしかできなかった。
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