シンデレラの約束

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何かもっといい言葉がかけてあげられたのでないか。 ずっと帰る途中の車の中でそれを考えていたけれど、答えは出ぬまま。 昨日の本はまだ読みかけだが、“これだ!”と思う言葉はなく、悩み中。 姉なら、どう言っただろう。 でも姉がいないから、理が悩むことである。 「お母さん、やっぱり理、まだ気にしてるっぽい」 帰宅してすぐ、キッチンで調理中の母に声をかけた。 「この前塾のお友達に言われたこと?」 「そう」 「そう……」 「お母さんには何か言ってきた?」 「いいえ。理は舞の方がお母さんより話しやすいのね」 「そうなのかな……」 私のレベルが低いからだろうか。それでも話しやすいと思われているといい。 「落ち込んでるっぽい理になんて声掛けてあげていいかわからない」 「そうね、難しいわよね。ただ子供の相談事にはね、アドバイスを無理に出すより、まずは同調することが大切よ」 「同調?」 母が玉ねぎを刻む手を止め、私を見つめた。 「そう。痛い時は痛かったね、嫌な時は嫌だったねって。やりすぎはよくないけど……。理はどんな感じだったの?」 「うん……“私立の中学に僕が行ったら嬉しい?”って聞いてきたから、嬉しいとは伝えたんだけど、遠慮する気なのかと焦って“行くんだよね?”って聞き返しちゃった」 「そう」   母がほんの少し眉を寄せた。 「今日の理ね、パンを買っているのかって気にしてたから、私、理がお金のことを気にしているはずだと思って“理は受験と健康のことだけ考えればいいのよ”って言ったの。もしかして、逆にうるさかったかな……?」 “もしかすると私の方が過敏になりすぎている?”という気もしてきた。 先を読み間違い、声掛けに失敗しただろうか。 「お母さんはその時の理の様子を見てないからわからないけれど、悪いことは言ってないんじゃないかしら?」 「そう?」 母が首を縦に振った。 「舞がハラハラしてると、理にも伝わるわよ。言ったことは戻らないのだから、考えないの。 それに大丈夫よ。きっと舞のことだからにこにこして送り出してあげたんでしょう?」 「まぁ……」 「それなら大丈夫」 本当に大丈夫?母は私を励ましてくれているのだろう。 しかし、子育てがこんなに難しいなんて……。 世の中の子育てをしている母親、父親を皆、尊敬する。 私はまだママ歴半年。 まだ勉強することだらけだ、と改めて感じた。
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