シンデレラの約束

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お互いの恋愛事情話はおしまいにし、私は算数のテキストを開いた。 望月先生も少し顔を近づけ、覗く。 「“整理の仕方”って、まるで家事ですよね?」 単元名に思わずそう言うと、望月先生が笑った。 「たしかに」 「わかりやすく“グラフのまとめ方”でもいい気がしますね」 「ははっ……」 合わせてくれている彼はやはり優しい人だと感じる。 「いつも思うのですが塾のテキストの問題は、小学校で習うものよりずっと難しいですよね?」 「そうですね、難易度が高くなってます」 私は長い文章と細かいグラフに息を吐く。 「でもこちらもコツを掴めば楽なんですよ?」 「そうなんですか?」 「えぇ、こちらに書いてもよろしいですか?」 教えてくれるのだろう。 望月先生が大学ノートを指したので、ありがたい、と思いながらシャープペン付きでノートを差し出す。 彼は塾講師らしく早々と問題とグラフを書くと、私に「まずですね……」と説明を始めた。 望月先生の教え方はわかりやすかった。彼の作った問題がよいのだろうか。 「……こんな感じなんですけど」 「あ、わかりやすい……」と感激が溢れる。 「よかった」 「はい。だから答えはAが一人多いんですね!」 わかったことが嬉しく、顔を上げると目の前に彼の顔のアップがあり、たじろぐ。 激しく瞳を瞬かせてしまう。 「そうです」 そのうえ近距離の笑顔が胸を刺激する。 爆発するのではないかと思うくらい、心臓が音を立て始めた。
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