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逃げられてよかった。
なんて、恥ずかしいの……。
それに“可愛らしい”とか“お綺麗”とか……
“アルマ”に着くまで、望月先生の言葉が頭の中で何度も繰り返されていた。
伊坂家の玄関口から「直!お待たせ」と叫ぶ。
「おぅ、ここだぞ」
直は私の背後に立っていた。
「わービックリした」
直は“ははっ”と笑い「行こうぜ」と私の頭の上にポンと手を弾ませた。
「うん」
直の家の駐車場は“アルマ”のお客様用駐車場になっているので、直の家族のものは停められない。
だから伊坂家の皆は3分ほど歩いた先にある柏木さんが所有する駐車場を、格安の値段で借りているらしい。
「お邪魔します」と直のブルーのスポーツカーの助手席に乗り込むと、彼に「ん……」と、りんごのパックジュースを差し出された。
「ありがとう」
「いいよ」
車がゆっくりと動き始める。
「なんか人の車って久々」
最近の私はほぼ塾の送り迎えでしか車に乗らないうえ、職場は近い。
自分以外の車に乗ることがまずない。
「直の車に乗るのも久しぶりだよね」
「そうかもな」
「相変わらず几帳面だね」
車内はピカピカ。
厨房の掃除を怠らない直は私生活でも真面目だ。
「舞が雑だからそう見えるんじゃね?」
「ひどいなぁ……。まぁ否定できないけど」
私の車は“いつ最後掃除したっけ?”という感じだ。
「ちなみにそのサングラスは顔出しを避けるため?」「おぅ」
「なんか芸能人みたいだね」
マスクで口元を覆い隠し、曇り空なのにサングラス。
きっと私なら不審者扱いだが、直は外人顔なのでそうは見えない。
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