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パンを買った私と直は、トイレを借りるフリをしてイートインコーナーを一通り覗くと、車に戻った。
「悪いな、中で食べさせてあげらんなくて」
「全然いーよ」
“アルマ”はおじさんの頃からパンの協同組合に入っているらしく、パン屋同士の繋がりがあるらしい。
組合ではセミナーや親睦会が時々あるらしいので、視察に行ったと知られるのは嫌なのだろう。
「もうすぐ理も帰ってくるから」
「……サンキュ」
望月先生とは結構長くいたみたいで、時刻はもう16時前だった。
「……コーヒーマシーン、店にも置くかな?」
「うーん、でも食べるところはないじゃない」
「まぁそうなんだよな……」
直が唇を萎める。
“アルマ”は狭い。
その分パンの種類が多いから嬉しいと思うお客さんは多いはず。
「“アルマ”のうりはパンの種類が多いことだよ。“したきりすずめ”的な」
「“したきりすずめ?”」
直の眉間な不思議に曇る。
「小さいつづらには小判がざくざくでしょ。
“アルマ”がそうじゃん」
小さい店にはパンがいっぱい。それが“アルマ”だ。
「種類は多いし、商品もパターン化してないし、お客さんは嬉しいよ。
ここの店はハードパンは多かったけど、柔らかいパンはあまりなかったよね?
“アルマ”はどっちもあるし。それに直サービス上手だし」
お得意様には新商品をつけて感想を聞くことだってあるのだ。
熱く語る私に直が“ふっ”と口元を緩めた。
「それに……もしかしたら美味しくないかもよ?」
私は私が選んだパンを袋から取り出した。
あえて“アルマ”にあるものと同じ商品を選んだのだ。
「これ、半分こしようよ」
「……おぅ」
バケット生地のベーコンチーズエピをジグザグに半分に割り、直に渡した。
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