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しかし郁ちゃんに説明するより、今はカードケースを受けとることが優先だ。
私はビニール手袋を取り、「すみませんでした。ありがとうございました」と、カードケースを受けとる。
「いえ」
望月先生が笑顔を見せた。
店内でも眩しい爽やかな笑顔。
胸が密かにコトトと揺れ、目を逸らしてしまう。
「そちらは前に櫻木さんにいただいたラスクですよね?」
望月先生の視線が私を飛び越え後ろへ向かう。
振り向く先には、彼に渡したラスクが二種類上段に並んでいる。
「美味しかったのでいただいていこうかな」
「ありがとうございます」
ラスクが取りやすいよう、私は場所を空けた。
彼が一歩足を踏み出した時、甘いメロンの匂いがした。
「ハードとソフトどちらがいいかなぁ。どちらも美味しかったので迷います」
ラスクを見つめ悩んでいる望月先生を見て、私はいいことを思いつく。
「こっちにします」とハードなラスクを取った彼は、他のパンの物色を始めた。
その隙に、ソフトなラスクをこっそりレジに持っていく。
今日のお礼にと。
「あの、おすすめのパンはなんですか?」
「あ、はい。全部美味しいのですが……人気であるのは塩バターパンですかね……」
それは柔らかいクロワッサン生地に塩と少量のはちみつバターが練り込まれているもので、シンプルな見た目だが、外はパリパリ中はふわふわとした生地の甘じょぱい風味が美味しく人気がある。
ちなみに直が考えたものだ。
「それでは一ついただこうかな……。
櫻木さんがよく食べられるパンはなんですか?」
「はい、私がよく好きで食べるのがバジルチーズやクルミパン、それからベーコンチーズエピに、クリームチーズデニッシュに、コーヒーサンドって……すみません」
いけない、喋り過ぎ。
「こちらのパンがお好きなんですね」
望月先生がクスリと笑うため、「わわ、すみません」と首を縮めた。
「いえ、おすすめが聞けてよかったです。
今日は全部は食べられないのでその中から二つ、いただきますね」
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