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店を出るため席を立ち、座敷をおりようと足元に視線を向けた時だった。
「理君」
沈んだ心が今、一番聞きたいと願っていた声が耳に届き、驚きで顔をハッとあげた。
啓さんだった。
理は「望月先生、こんばんは」と特に驚くこともなく、頭を下げたので、私も小さく真似をした。
「お食事ですか?」
「はい」
彼の笑顔に胸が癒される。
しかし啓さんの視線は理に向き「いいねお寿司」と言った。
私は“いけない”とお受験ママの顔を張り付ける。
「はい」
「美味しかった?」
「はい、美味しかったです」
啓さんには咲哉さんと会うことを伝えていた。
彼は心配しつつも断るチャンスだと送り出してくれた。
ちなみに咲哉さんは会計のため、今いない。
「望月先生は今からお食事ですか?」
「えぇ」
日曜日は早く終わることがある彼は、今夜は小学生を受け持つ塾講師らと食事に行く予定だと聞いていた。
まさか同じ店だったとは驚きだ。
すると別のところから「望月先生」という女性の可愛らしい声が彼を呼んだ。
啓さんも私も声のした方に視線を向けると、襟のフリルが目立つブラウスに黒いパンツを着た若い女性が小走りにこちらへやって来た。
“誰……?”と、私の心は敏感に反応する。
確かめたいと啓さんを見つめた時、「理、舞さんお待たせ」と咲哉さんが戻って来た。
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