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私が頷くと直は厨房へいった。
次に啓さんとぶつかった視線は、何か言いたげ。
“こういうときはどうしたらいいんだっけ……?”
短く悩んだ末、ぎこちない笑顔をうかべると、直が売り場に戻ってきて先ほど囁いたパンを掴み始めた。
ますます気まずい。
「あ、あのサンドイッチはいかがですか?」
私は小さな声で直から離そうと口を開いた。
啓さんは「えぇ」と言うが、その顔に笑顔がなかった。
きっと何か気付いたに違いない。
早く話しておきたかったと後悔する。
できることは啓さんを今はお客様として接することだ。
だから会計時はあともう少しだとホッとした。
その際、彼が直に見えないように“夜、電話していい?”と入れたスマホを見せた時は胸がどぎつき、厨房を確認してしまったけれど。
直はこちらに背を向けており、私は三度“うんうんうん”と頷く。
すると彼は笑顔を浮かべ“舞に会えてよかった。頑張ってね”と見せた。
私は緩みそうになる頬を真面目に保ちつつ、袋にパンを詰めた。
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