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「こんばんは」
啓さんの声は穏やかだった。
不安だった心が半分くらい落ち着く。
「あ、あの昨日はごめんなさい。“アルマ”にせっかく来てもらったのに、よそよそしくしちゃって……。しかも電話とれなくて……寝ていました」
「ううん、僕こそ昼間の返信ができずにいてごめんね。それに昨日“アルマ”を突然訪ねて、緊張させたね?舞が心配で」
啓さんが“ふっ”と笑ったので、またホッとした。
「もう大丈夫?」
「大丈夫。すっかり」
「そう」
「病院には行った?」
「ううん、熱だけだったので。風邪症状もないので」
「よかった」
「はい。心配してくれてありがとうございます」
「ううん」
私たちの空気がいつもの感じに戻る気がした。
「ねぇ舞、体調が悪くなければだけど、今から行くから少し会わない?」
啓さんに会いたい。
会って、触れて、彼を感じたい。
色々な胸のモヤモヤを逃がせる気がする。
けれど母にバレていることは忘れていない。
「啓さん」
「うん?」
「実は、母にバレているみたいで」
「……え、僕のこと?」
彼の声がワントーン低くなった。
「そこはわかんないんですけど、私が夜に家を抜けていたこと、気付いていたみたいで」
「そうなんだ……しまったね……大丈夫かな」
「母は“鍵を閉めてね”というだけで悪いようには思ってなかったんですけど、少し恥ずかしくて……」
母が知っているのに堂々とできない。
もういい大人なのに、恥ずかしいなんて面倒だと思うだろうか。
優先順位も下。
加えて子供っぽい私に呆れられてしまいそうだ。
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