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直と私の視線がぶつかる。
胸がギクリと嫌な音を立てたれど、すぐに彼の方から逸らされた。
啓さんには直に私と彼の関係がバレたことはまだ話せていない。
「舞」
啓さんが囁き声で私を呼ぶため、彼に視線を向けた。
心配そうな瞳が、私をより悩ませる。
「体調は大丈夫?」
私は首を縦に振るだけにした。
動揺で言葉が出なかったのだ。
そこに店の電話が“トルルル”と鳴った。
その音にハッとし、私はようやく啓さんに「すみません」と言えたが、電話に出なければと思っていたのに直がレジ横の電話を先にとってしまう。
売り場に私と啓さん、直がいる。
気まずい空気が流れるのを感じた。
啓さんはバレるといけないと思ったのだろう。
「オススメのパン教えてください」と講師口調で言った。
「あ、はい。今、パニーニができあがったばかりです。あとカレーパンもできあがったばかりで……」
だから私もそれに合わせ、直に背を向けオススメのパンを教える。
なるべく啓さんと距離をとりながらだ。
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