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そして、なるべく直に届く大きな声で。
私は仕事をしているだけ、とアピールしたかった。
啓さんにオススメを教えながら、片方の耳で直の声を拾っていると、どうやら電話は予約の注文のようだ。
好みのパンを電話予約して来店するお客様は結構いる。
きっと直は絶対電話を切った後、こちら側に来るだろうと予想した。
私はますます固くなる。
「パニーニいただこうかな……」
「ありがとうございます」
啓さんに会えて嬉しい。
昨日会えなかったぶん、話もできなかったぶん、心は彼を求めている。
けれど早く帰ってほしい。
心の内は複雑。
「あとカレーパンもいただきます」
普段なら“もっと選んでください”と言えるのだが、「ありがとうございます」と早口で言った。
啓さんが「あとは何をいただこうかな」と言った時だ。
ついに直の電話が終わってしまった。
予想通り、こちら側に直が来るのを背後から感じてすぐ、「すみません」と直が啓さんに断ると、直は私の耳元で「タラモピザとバジルチーズ五個ずつ予約入ったから」と囁いた。
それは啓さんに薦めるなということ。
私の胸はパンの名を忘れてしまうくらい動揺する。
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