秘密がバレる時-2

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そして、なるべく直に届く大きな声で。 私は仕事をしているだけ、とアピールしたかった。 啓さんにオススメを教えながら、片方の耳で直の声を拾っていると、どうやら電話は予約の注文のようだ。 好みのパンを電話予約して来店するお客様は結構いる。 きっと直は絶対電話を切った後、こちら側に来るだろうと予想した。 私はますます固くなる。 「パニーニいただこうかな……」 「ありがとうございます」 啓さんに会えて嬉しい。 昨日会えなかったぶん、話もできなかったぶん、心は彼を求めている。 けれど早く帰ってほしい。 心の内は複雑。 「あとカレーパンもいただきます」 普段なら“もっと選んでください”と言えるのだが、「ありがとうございます」と早口で言った。 啓さんが「あとは何をいただこうかな」と言った時だ。 ついに直の電話が終わってしまった。 予想通り、こちら側に直が来るのを背後から感じてすぐ、「すみません」と直が啓さんに断ると、直は私の耳元で「タラモピザとバジルチーズ五個ずつ予約入ったから」と囁いた。 それは啓さんに薦めるなということ。 私の胸はパンの名を忘れてしまうくらい動揺する。
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