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「咲哉君が悲しまないといいんだけど」
理が唇を尖らせて窓の外を見つめた。
そもそも私が関東圏の学校を薦められていると話したのがきっかけだ。
理と咲哉さんを悩ませたのは私だろう。
私は「大丈夫だよ」と明るく言ったけれど、密かに自分を責めていた。
理を塾まで送り届けるとすぐ、私は咲哉さんに電話をした。
次に会う時でもよかったが、今すぐ話したかった。
咲哉さんはすぐに出て「舞さんから電話って珍しいね」といつもの調子で笑う。
「咲哉さんに話したいことがありまして」
「ん?理のこと?」
「はい……」
「何?あんまりいい話じゃないんじゃない?」
彼の苦笑する声が届く。
「さっき、理から青付中に行きたいって言われました」
彼は少し黙った後「そう」と答えた。
「私から関東圏の学校の話を咲哉さんに持ち出したので……振り回す形になってすみません」
「いや、俺、強引だったからね、こちらこそごめん」
「そんな……一生懸命理のこと考えてくれていたんですよね、ありがとうございました」
咲哉さんが“ふっ”と笑う。
「あと10ヶ月あるし、変わるかもしれないよ?」
少し意地悪く言う彼に「その時はその時で考えます」と答えると「そっか。その時はまた教えて」と笑った。
「その時は……」
私も苦笑する。
「そういえば、青付中のこと調べたけど、舞さんの言っていた通り、医学部進学率すごく高いんだね」
「え、あ、そうなんです」
「俺も応援するよ」
「ありがとうございます」
「ううん。また来月両親を連れて会いに行くよ。理が六年生になったお祝いに何かあげたいって母が言ってるからそれとなく探っててくれる?」
「え、あ、はい!」
なぜだろう。
瞳に涙が浮かんだ。
私はそっと拭いて「ありがとうございます」と言った。
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