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こんなに自分の家に入るのが怖いと思った日はないだろう。
テストで悪い点数をとった日だって、怒られてしかたなしに戻ってきた日だって、ここまで怖くなかった。
櫻木家の前で私と啓さんは顔を見合わせる。
「こういう場合はピンポンするの?」
「うんたぶん。僕はお客だからね」
“ただいま”と入っていきたいところである。
しかし、彼の印象はアップさせたい。
「お、押すよ」
インターフォンに手を伸ばす。
その手はふるふると震えていた。
「うん」
母は今か今かと待ち構えていたのかもしれない。
“ピンポン”と音が鳴るとすぐ、玄関の扉が開いた。
母だ。
母はフルメイクで、まるでこれからどこかへディナーに行くようなフォーマルな格好をしていた。
普段ならば突っ込みたいところである。
その母も啓さんを見て目を丸くした。
“まさか望月先生が!?”という顔である。
「いつもお世話になっております。望月です。今日は突然お時間を作っていただきまして、申し訳ございません。ありがとうございます」
深々と頭を下げる彼に固まっていた母も「わ、えぇ……。えぇ……そうなの……望月先生なんですか……」と困惑の声をあげた。
やはり怒られるに違いない。
覚悟をした。きっと、啓さんも。
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