最大の危機と最大の転機-2

14/23
前へ
/23ページ
次へ
父は先ほど出てきたくせにソファで新聞を読んでいる。 きっとフリだ。 新聞が逆さま、なんてドラマのようなことはないものの、あからさまなフリに戸惑う。 「あなた、お連れしたわ」 父が新聞から顔を覗かせた。 「座ってもらいなさい」 「……どうぞ、お座りになって」 ローテーブルのソファの向かいの席にはお客様用座布団が敷いてある。 私と啓さんは迷いつつも座った。 彼は一応“失礼いたします”と声をかけたが、父は無視だ。 母が「そうだお茶お茶……」と呟くように言い、キッチンへ行く。 父はまた新聞を読み始めた。 “どうするの?” 啓さんを見つめると、彼は首を縦に一度振った。 現状、母が戻ってくるのを待つか、父が新聞をおろすのを待つかだろう。 先に母が戻ってきた。 お茶を並べ終えると、父の新聞を奪った。 無表情の父が“こんにちは”する。 私の緊張は最高潮。 きっと、彼はもっとだろう。 すると彼が立ち上がった。   「はじめまして。望月啓と申します。本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます」 彼の声ははっきりとしており、頭を下げる角度は直角。 私も反射で立ち上がり、頭を下げてしまう。 「あなた、こちら理の塾の……」 「知っているよ。担任なんだろう?」 父の視線が啓さんに向く。 顔を上げた彼は「はい。勤務先の“進伸館”では理さんの担任をしております」と答えた。 やはりよく思われないのかもしれない。 塾の生徒の保護者に手を出す人だと思われたくなかった私は、「お父さん、彼はすごく優秀な人なんだよ」と割ってしまう。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加