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父は先ほど出てきたくせにソファで新聞を読んでいる。
きっとフリだ。
新聞が逆さま、なんてドラマのようなことはないものの、あからさまなフリに戸惑う。
「あなた、お連れしたわ」
父が新聞から顔を覗かせた。
「座ってもらいなさい」
「……どうぞ、お座りになって」
ローテーブルのソファの向かいの席にはお客様用座布団が敷いてある。
私と啓さんは迷いつつも座った。
彼は一応“失礼いたします”と声をかけたが、父は無視だ。
母が「そうだお茶お茶……」と呟くように言い、キッチンへ行く。
父はまた新聞を読み始めた。
“どうするの?”
啓さんを見つめると、彼は首を縦に一度振った。
現状、母が戻ってくるのを待つか、父が新聞をおろすのを待つかだろう。
先に母が戻ってきた。
お茶を並べ終えると、父の新聞を奪った。
無表情の父が“こんにちは”する。
私の緊張は最高潮。
きっと、彼はもっとだろう。
すると彼が立ち上がった。
「はじめまして。望月啓と申します。本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます」
彼の声ははっきりとしており、頭を下げる角度は直角。
私も反射で立ち上がり、頭を下げてしまう。
「あなた、こちら理の塾の……」
「知っているよ。担任なんだろう?」
父の視線が啓さんに向く。
顔を上げた彼は「はい。勤務先の“進伸館”では理さんの担任をしております」と答えた。
やはりよく思われないのかもしれない。
塾の生徒の保護者に手を出す人だと思われたくなかった私は、「お父さん、彼はすごく優秀な人なんだよ」と割ってしまう。
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