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父の顔は固いまま。
塾講師という立場をやはり気にしているように見えた。
どう気を緩めようと考えあぐねる。
「君はいくつだね?」
父からの質問に、私は背をピンとさせた。
「30歳です」
「ご両親はご健在かな?」
「はい」
父が黙る。顎を手の甲で擦りながら啓さんを見つめた。
「父は6年前に自動車会社を退職いたしまして、今では趣味の釣りに没頭しており、母は週に三日、学童保育士として働いております」
啓さんの父親の趣味をはじめて知った。
けれど、父と被らない。
私はなにか共通点がないかと唇を萎める。
「そうかい。ご兄弟はいらっしゃるのかな?」
「はい。姉と弟が一人ずつおります」
そこで私は口を挟んでしまう。
「そうそう偶然なんだけどね、啓さんのお姉さん“石筒屋”のアクセサリー売り場で働いていて、私と知り合いだったの!」
「まぁ、そうなの。偶然ね」
「でしょう?佳純さんっていうんだけど彼に似てとっても美人なのよ」
母は「そう、望月先生のお姉さんならお綺麗でしょうね」と笑う。
しかし父は違う。
父だってきっと美人が好きに違いないのに、と思いヘラヘラと笑う私に対し、父は無表情だ。
なかなか手強い。
「学習塾の講師は夜型で不規則な職業ですよね?」
「はい。おっしゃるとおり、規則正しい職業だとは言えません」
「そうですよね。君は身体は丈夫かな?」
「はい。風邪は滅多にひきませんし、年に一度の健康診断では一度もひっかかったことはありません。身体には自信があります」
父がまた「ふむ」と言葉にならない声を出す。
父は何が言いたいの?
私は心配になってきた。
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