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「我が家の長女と娘婿が亡くなったのはご存じですよね?」
「……えぇ」
ますますわからない。
私は眉をしかめ、父を強く見つめた。
「長女は突然の事故で亡くなりましたが、娘婿は病死でした」
「お父さん?」
父は答えず、啓さんを見つめ続ける。
彼は真剣な顔をしていた。
「今だから話しますが……」
父が一息吐く。
「娘婿が亡くなった時、長女と娘婿が結婚の挨拶に来た時のことを思い出し、反対すればよかったと後悔してしまう私がいました」
父の顔が僅かに歪む。
「長女は学生結婚でした。
娘婿が挨拶に来た時はまだ長女が学生だったので、学校はどうするのか、まだ教授になりたてだった娘婿が娘をちゃんと養っていけるのかという話ばかりで、彼に身体が丈夫なのか聞くこともしなかった」
母の瞳から涙が一粒溢れ落ちた。
「ですので、舞はなにより身体が丈夫な人と添い遂げてもらいたいと思っております」
ようやく、父が何が言いたいのかわかり、目が熱くなる。
「今日わざわざお越しいただいたということはそれなりに覚悟があってのことでしょう」
啓さんが突然座布団からおり横にずれ、頭を下げた。
「はい。舞さんといつかは結婚させていただきたいと思っております」
「頭を上げてください」
私も感激しながら、「啓さん、足、痛いよ」と彼の腕を引く。
彼は動かないけれど、私に“大丈夫”と首を縦に振ってみせる。
「塾講師はハードだと聞きます。私はそれが心配です」
父が両手を組み、顎を乗せた。
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