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父は市職員だった。
定時であがることはそうなかったにしても、よほどのことがない限り、就業時間が深夜にさしかかることはなかった。
そして、土日祝日は休み。
啓さんとはまるで違う。
「舞は不器用で危なっかしいところもありますが、優しくて一生懸命な私たちの大切な娘です。
拝見したところ、君も舞のよさを理解してくれ、とても想ってくださっている」
不器用で危なっかしいとは初耳である。
感激していた心が少し冷静になった。
「親としては嬉しいことです。しかし……」
父が“うーん”と今度は腕を組む。
「啓さんの人柄には反対しないんだね?」
父が私をようやく見た。
「気になるのは不規則な塾講師っていう仕事の部分?」
「……まぁ、それが一番気になるところだな」
父が難しく顔をしかめた。
「啓さんもう何年もインフルにかかってないんだって。ねぇ、啓さん」
「あ、はい」
「生徒からもらいそうなのに、風邪ももらわないらしいよ。
お父さんなんて今年も去年もインフルかかったよね?」
父が「まぁ……」と気まずそうに答えた。
「たしかに塾講師は不規則な職業ですが、私は身体には本当に自信があります。
昔のことですが小、中、と皆勤賞を二度もらったことがありますし、社会人になってから一度も病気で休んだことはありません。
遺伝もあるのでしょうか。両祖父母もピンピンしております」
「わ、そうなの?知らなかった」
皆勤賞とは初耳である。
啓さんが控えめに笑うと「それはすごいわね」と母が乗ってきた。
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