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「長生きの家系でいらっしゃるのね」
母が微笑んだ時だった。
家の電話が音を立てた。
「誰かしら……」
「営業か何かだろう」
「そうね。少し失礼しますね」
母が席を立つ。
私と啓さんと父だけの空間。
なんて気まずい……。
父は視線を私からも啓さんからも逸らすように母の背に向けている。
だが、父を気にしていられたのは、はじめだけ。
「まぁ!そうなんですか?」と母が焦り声を上げたからだ。
嫌な予感がした。
私は啓さんを一瞬忘れ母の下に駆ける。
母は私を見つめ、「えぇ……えぇ」と電話の相手に相槌をうっている。
「学校?」
小声で聞くと、母が首を縦に振った。
理になにかあったのだ。
私は受話器を奪いたいくらい落ち着かなくなり、母の回りをうろうろする。
母はメモをとりはじめ、それが理の旅行先の住所だとわかり、怖くなった。
しばらくして、受話器を置いた母に「理、何、どうしたの!?」と飛び付く。
母の顔色が悪い。なにかあったに違いない。
いつの間にか父も隣にいた。
「腹痛を訴えて嘔吐を繰り返しているらしいの」
「え……大丈夫なの?熱は?」
「微熱みたい。一応付き添いの先生が病院へ今から連れていってくださるらしいのだけど、たぶん今夜は無理だろうから迎えにこられないかって言われたわ……。
そういえば今朝少し食欲なかったわね」
寂しさに浸り、食欲まで気が回っていなかった。
なんてことだろう。
「私、迎えに行く。えっと何が……一番何で行くのが早いんだっけ……」
父を見つめる。
「……そうだな」と言った父も不安そうだった。
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