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大切な話がまだ終わってないというのに、父に逃げられては困る。
慌てん坊の私は、啓さんがきっと順序立てしていたと思うのだが、「お父さん、大変なんだってば!今日、啓さんとデートしてたのを、理の塾の保護者に見られちゃったの!」と大きな声で伝えた。
今にも出ていこうとした父だが、身体ごと振り返った。
「まぁ、そうなの?」
母はゆったりとした口調だが、驚いている様子だ。
「……うん、パンケーキ屋さんで、優羽ちゃんの母親に会っちゃった……」
母の顔が固くひきつった。
啓さんが頭を深く下げる。
「申し訳ありません。私がもっと用心するべきでしたのに、大変な事態を招いてしまいました」
「違うの!啓さんは悪くないのよ。私がどうしても行きたいって行ったから今日はパンケーキ屋さんに行ったの」
「いえ、舞さんは悪くありません。私が……」
「本当に本当に啓さんは悪くないの。私のせい……」
彼の言葉を私の声で被せると、父が固いため息を吐き、こちらへ戻ってきた。
「優羽ちゃんのお母様はどういう様子だったの?」
母の質問に私と啓さんは顔を見合わせた。
「……ひどく驚き、怒ってらっしゃいました」
「すごく理不尽なことを言われた」
「理不尽なことって?」
「私たちが付き合ってるから理の成績がいいんだ、テストの情報を流したり個人的に指導しているに違いないって……」
思い出すと悔しくなる。
下唇を思いきり噛み締めると、啓さんが「本当に申し訳ございません」とまた頭を下げる。
「竹田優羽さんのお母様には決してそんなことはないとお話はいたしました。しかしご理解いただけたかどうか……」
「あの感じだと塾にきっと言うわ……」
母が「まぁ……」と嘆くように言った。
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