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理の顔色は車に乗っていた時よりよくなっている。しかしいつもの元気さはない。
「大丈夫?ソファ、行く?」
「うん」
少しふらつきながらも理は父の横に座った。
「はい、理君白湯よ。ゆっくり飲んでね」
「ありがとう」
理が行儀よく湯飲みを両手で掴み白湯を口にするのを横目に、啓さんや両親と目を合わせる。
皆、たぶん心の内は“どうしよう”だ。
「熱くない?」
「うん、平気」
理は白湯を口にしながら、啓さんを見つめている。
「ね、ねぇ理」
啓さんはきっと困っているはずだ。
私がなんとかせねばと、理と同じ目線になるように屈んだ。
「ん?」
「私と望月先生が結婚ってどういうこと?」
そもそも付き合ってる話さえしていない。
ぎこちない笑みを浮かべると、驚く言葉が返ってきた。
「舞ちゃんと望月先生が恋人同士なこと、知ってたよ」
「……え!」
驚いたのは私だけでないはずだ。
「ど、どうして!?」
「だって舞ちゃんと先生文通やプレゼント交換してたでしょ?」
まだ初期のころである。
お互いに慣れていない初々しい頃の感じを思い出す。
だが今は懐かしさに浸っている場合でない。
「それだけ……?」
心臓がバクバク音を立てている。
「よく部屋で電話してたでしょ?何度も告白してるの聞いたよ」
私の顔がボッと熱くなった。
きっと彼に“好き好き”伝えている時の私だ。
「“啓さん”って聞こえてきていて、はじめは誰かわからなかったけれど、僕が塾で熱が出た日舞ちゃんが先生を名前で呼んでるのを聞いて確信したんだ」
的確な分析である。
私は恥ずかしさと、自分の脇の甘さを指摘され座り込んでしまった。
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