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上手くやっていたつもりだった。
だからまさかという思いだ。
部屋の壁は思っているより薄いよう。完全な計算ミスだ。
「大丈夫?」
啓さんが私の背中を支えるようにして座り込み、顔を覗き込む。
心配気な彼の瞳と近距離で瞳がぶつかった。
「……ごめんね、私ってバカ……」
彼は小さく微笑み首を横に振ると、理が「舞ちゃん」と呼ぶので、恐る恐る顔を上げた。
私の唇も眉も頼りなく下がっているはず。
「落ち込むことなんてないよ」
「……理」
落ち込むよ……と、ますます気持ちは弱る。
「僕、舞ちゃんが僕のせいで舞ちゃん自身のことを後回しにするのが嫌だってずっと思ってたんだ。
“石筒屋”だって僕のせいで辞めたでしょう。
お友だちと遊ぶ時間も減らしてくれた。
お母さんが死んでからずっと僕に付き合ってくれる舞ちゃんに、いつもごめんなさいって心で思ってたんだ」
賢い理が転職のことを気にしないわけがないとは思っていた。
だから理が申し訳なさげな空気を出すと、わざとらしくも明るくして彼の気を別の方にひいてきた。
「理……」
「僕、舞ちゃんが僕のせいでいろんなこと犠牲にするのあんまり見たくない……。
けれど、僕まだ何も一人ではできないから、甘えるしかなくて……たくさんごめんね」
理の身体が小さく縮こまった。
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