彼の心の内

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「ごめんねって、理はなにも悪いことしてないのよ!」 気がつくと、啓さんの身体を振りきり立ち上がっていた。 「子供は大人に甘えるものなの。それに私、犠牲にするような大したものなんて持ってないんだから!」 「でも、お母さんが舞ちゃんに僕のことお願いしたから、舞ちゃんが僕のお世話をすることになったでしょう……」 姉が息を引き取る時、もちろん理も側にいた。 理の手を握りながら、姉は発していたので、私に託した最後の願いをよく知っている。 「僕もね、お母さんが死んですぐの頃、最後のお願いに応えたくて勉強を頑張ろうって思ってた。 けれど、塾で両親がいないのにどうやって私立に行けるのかって聞かれてから、舞ちゃんやおばあちゃんやおじいちゃんに僕がいるだけでも大変なのにますます大変なことをさせている気がしてきて、一時勉強を止めようと思っていたんだ」 姉が亡くなってすぐの理の勉強に対する意欲はすごかった。 それは両親への死への悲しみが向けられたものだとわかっていた。 それから、理の成績の伸びが悪かった時期があったのも覚えがある。 それは優羽ちゃんのその発言の後だった。 「大変だなんて思ってないよ!」 「そうよ、理君。理君が頑張ってるのを見られることはおばあちゃん達にとって嬉しいことなのよ」 目尻に涙を浮かべて訴える母の横で、私は我慢できず涙を溢す。 「……ありがとう」 「理……」 「僕、お父さんみたいに教授になりたいんだ。医師免許だってとって癌が治る治療薬を見つけたいと思ってる」 義兄は癌だった。 皆、何も言えなくなり一瞬リビングがシンとする。
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