彼の心の内

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普段私が座る助手席には、父がいる。 はじめ遠慮していたが、強引に座らせたのだ。 大量のビニール袋とバケツ、それから毛布を乗せて準備はバッチリ。 病院まで一時間ちょっと。 きっと気まずいものになるだろうと思っていたけれど、母が啓さんに色々と塾での理について質問するので、今のところシンとした空気にはなっていない。 「理さんは本当に優秀です。彼に関してはとくに心配することがございません」と理を褒めると、父も嬉しそうに「そうですか」と頬を緩めるほどだ。 「望月先生は色んな生徒さんを見てこられたでしょう?合格する子の特徴ってあるのかしら?」 母の質問に「あ、私も気になるかも!」と乗る。 「……そうですね……やはりコツコツ努力を継続できる子でしょうか」 「努力家かぁ……」 「あとは弱点を把握できる力のある子……ですかね」 「なるほど……」 「勉強のできる子は弱点を把握し、その部分を重点的に学習しているように思います」 父も納得しているのか小刻みに縦に首を振っている。 「それなら、親御さんの特徴とかあるのかしら?」 その質問は保護者三人いる中で答えにくいに違いない。 たまらず「お母さん、啓さん困るよ」と言ったけれど彼は「いえ」と小さく笑った。 「そうですね……すべてがすべてではないですが、“なにがなんでも合格する”というような切羽詰まった様子の親御様よりは、ゆったり構えておられる方であった方が、お子様は集中しやすい環境にあるように思えます」 そこでハッと優羽ちゃんの母親のことを思い出した。
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