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顔をあげると啓さんの顔が視界いっぱいに映り込む。
だが、潤んで彼がどんな顔をしているのかわかりにくい。
彼は無言で私の腕を引き、退室させた。
そして処置室から少し離れたところまで行くと、私をふわりと抱き締めた。
「大丈夫?」
「……うん、ごめん……。私、泣き虫過ぎ……」
彼のスーツが私の涙を吸う役目をする。
泣き虫な私を彼はよく知っている。
“そんなことないよ”というように、私の後頭部を優しく“ポンポン”と叩く。
私を落ち着かせてくれる。
優しいリズムも、手の温もりも。
「縁起でもないこと考えちゃった……。私って、最悪……」
彼は私の顔をより胸に押し寄せる。
「理君の前で我慢した舞はえらいよ」
優しい言葉にまた胸がジワリと熱くなる。
しばらく彼の胸を借りていると、斜め前から「……舞」と声をかけられた。
父だった。
私も、たぶん啓さんもハッとし、彼は大きく手を離す。
私は一歩後ろに下がってしまった。
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