彼の心の内

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理は啓さんの二列目のシートに寝転ばせ、私と母は三列目に乗り、理の様子を窺っていた。 途中、嘔気に襲われる理に合わせパーキングエリアにとまりながら移動していたので、行きの二倍ほど時間がかかった。 きっと、啓さんは疲れたはずだ。 だが彼は疲れを見せることなく、理を抱え自宅へ運び、さらに荷物なども運び入れ、動いてくれた。 理はというと無事に自宅に到着すると安心したのか、一階の奥の和室に横になるとすぐに寝息をたて始めた。 しばらく理を見ていたが、啓さんは大丈夫だろうか、とハッとする。 縁側に繋がる廊下を抜けリビングへ行くと、啓さんの姿が見えない。 父は疲れたのかソファにぐったりと背をもたれて座っている。 もう帰ってしまったのだろうか。まだ、お礼も言えていないというのに……。 「理君、寝た?」 「寝たよ。ねぇ啓さんは?」 「望月先生ならお風呂よ」 「……え!」 “なぜ?”と瞳を瞬かせる。 浴室に駆けたくなったが、父の手前できない。 「理君の汚れた服を洗ってもらったのよ。それが望月先生のスーツを汚してしまって……。だからお風呂に入ってもらったわ」 母は小さく笑ったが、私は笑えない。 「え!啓さんに汚れ物洗わせたの?」 「えぇ、“洗濯は得意です”って言うから……やっぱりまずかったかしら?」 母は理の身体を拭ったり、着替えさせたりしていた私と一緒に忙しそうにしていた。 「“まずかったかしら?”って……」 「ちゃんと感染予防にビニール手袋してもらったわよ?」 そういう問題じゃない、と唇を尖らせると母が「望月先生って優しいのね。いい人だわ」と瞳を輝かせた。 恋人を褒められて悪い気はしない。 しかし、素直に喜べない。 啓さんは振り回されて疲れてないだろうか。 やっぱり浴室に駆けたくなった。
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