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22時前、啓さんが我が家を訪ねてきた。
恋人を訪ねる。そんな甘いものではなく、今日の状況報告だ。
理は母と二階に上がらせているのでいない。
しかしあまり遅くなってはいけないと、啓さんは優羽ちゃんの母親が一人で来て、個別指導の手続きを済ませたことを手短に伝えた。
父の反応は昼間と同じだ。
私もそう。
塾側もとりあえずの解決に胸を撫で下ろしている様子らしい。
啓さんの立場は大丈夫なのだろうか……。
父に“これ以上は踏み込むな”と注意され、とりあえず了承した私は、帰る啓さんを見送ると言って外に出た。
少し二人で話したかったのだ。
彼はその気持ちに気づいており、私を車に誘った。
二人きりになったのに、彼に抱きつく甘い雰囲気にはならない。
「私たちのこと、何か言ってた?」
啓さんが苦笑いする。
「少しだけ……」
「そう……」
「啓さんは塾では色々言われてない?大丈夫?」
彼を下から見つめると「うん、大丈夫。心配しないで」と優しく微笑まれた。
本当だろうか。
怪しんでしまう。
「……ごめんね」
「舞は悪くないよ。僕が……ごめん」
少しの間しんとする。
「ねぇ、啓さん」
彼の腕を少し引く。
「うん?」
「私たち、理の受験が終わるまで会うのを控えた方がいいかな……?」
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