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彼の瞳も真っ直ぐに私を見返す。
「そうした方がいいと思うの……」
瞳が微かに揺れた。
彼の顔は疲労感を隠して見える。
その顔に僅かに乗せた微笑みを見つめていると、胸がほろ苦く痛んだ。
「……わかった」
彼が頷くまで少し間があった。
「……うん」
痛みで胸がいっぱい。くらくらする感じがした。
「舞のご両親にも伝えないといけないね」
一応婚約期間の私たちだ。
そういう話も先伸ばしということになる。
「……ありがとう」
私は啓さんの手を振りきって、彼に抱きついた。
「ごめんね」
「僕こそ心を悩ませて……ごめん」
「ううん」
私は彼の胸に顔を埋め、滲む涙を彼のシャツで密かに拭いた。
その日、改めて啓さんが我が家に訪れ、私たちの決断を両親に話した。
二人は悩ましげな顔をしながら“二人で決めたことなら”と見守る姿勢をとった。
ちなみに理には秘密にすることにした。
“お受験ママ頑張るぞ”と新たに意気込んだ私だが、翌日の夜にはもう寂しさを感じた。
啓さんとはデートこそできなかったが、電話はほぼ毎日し合っていたためだ。
自室の机に飾ってあるチンアナゴの置物まで寂しそうに見える。
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