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チンアナゴを持ち上げて、机のライトになんとなく翳した。
チンアナゴは優しく白く光る。
「この時から……」
啓さんは私の心にいた。
正直なところ受験生を見守る生活は大変な時もあった。
それでも啓さんがいたから頑張れたこともある。
彼の優しさに癒された。
でもあと三ヶ月、私がしっかりして頑張らなければ……。
チンアナゴを机を戻し、大きく息を吸った。
「くりの栽培のあとが見つかった遺跡は?」
「“三内丸山遺跡”」
「それは何県?」
「青森」
「正解。じゃあ水田のあと、高床倉庫のあとが見つかったのは?」
「登呂遺跡」
「それは……」「静岡県」
「正解、さすが!じゃあね……」
もう今は復習の繰り返しだ。
金曜日の今夜は毎回のごとく理に問題を出していた。
「あとはね福岡県の板付遺跡と佐賀県の吉野ヶ里遺跡があるよ」
「バッチリ、さすが」
理の頭の調子は好調。
啓さんと会うことと電話を控えると決めてから週が二度回った。
少し寂しさにも慣れてきた。
きっと、送り迎えの際、たまに彼の姿を目に入れられるせい。
理はというと、優羽ちゃんが個別指導へ移ったことに特に反応を見せることはなく、変わりがないように見える。
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