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優羽ちゃんも個別指導の教室で頑張っているらしい。
塾にも私と啓さんが受験まで距離を置くことを伝え済みなので、それは教室長からの電話で聞いたことだった。
その電話をとったのは私だ。
啓さんとのことを知っている教室長と話すのはドキドキしたが、教室長からすると私は保護者であるので、教室長の口調は理を気遣うもので穏やかだった。
穏やかな口調に気が緩み、啓さんの塾での様子を尋ねたくなったが、それは胸に押し込め電話を終えた。
二週間後の土曜日に啓さんと個人面談がある。
それには私が行く予定だ。
保護者としてなので、問題はない。
その際に、彼の様子が見られるのではと密かに期待していた。
それより二日早い木曜日の午後、意外な人物が“アルマ”を訪ねてきた。
優羽ちゃんの父親だった。
お金持ち感を演出するブランドもののシャツにベルト、セカンドバッグを身に付けた優羽ちゃんの父親は、「櫻木さんはこちらにいらっしゃいますか?」と尋ねてきた。
「私、ですけど……」
“誰?”と思いつつ上目遣いに見つめると、「竹田優羽の父です」と答えたのでハッとした。
「え!」
驚く私に優羽ちゃんの父親は礼儀正しく頭を下げ「お仕事中恐れ入ります。少しお話をさせていただきたいのですが……」と言った。
正直、謙虚な様子に本当に優羽ちゃんの父親だろうかと疑った。
父は在宅していたので直に断り、自宅に優羽ちゃんの父親を誘った。
怒られる?
怒鳴られる?
胸は嫌な緊張感でいっぱいだった。
母もそうだったはずだ。
カチコチに顔が固まっていたから。
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