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 浴衣に着替えて街を歩いていると、自分とそっくり同じ柄の浴衣を着た人が前から歩いてきた。  カラコロと鳴る下駄も、鮮やかな帯も、そっくりそのまま。  まあ量産されている市販のものだし、同じ浴衣のコーディネートも仕方がないのかなあなんて歩く。  すると目の前から着た同じ浴衣のヒトがくすり、と笑って自分の横を通り過ぎた。  よく分からないけれど、何となくもやっとする。  振りかえってその人をもう一度確認しようとしたら、――けれどどこにもその姿は無かった。     「ドッペルゲンガーというのを知っているかい」  わたしの横でそんなことを話しだしたのは昼の月。  いいや、とわたしが返せば、 「自分そっくりの相手に出逢うと、間もなく死んでしまうと言う逸話があるのさ」  そんな恐ろしげなことをけろりと言ってみせる。月というのは常日頃からそう言う一面を持っているのだ。  とはいえ、このあいだのヒトがもう一人の自分だったかは正直判らないのだけれど、それでももやっとした気分になるのは誰の目にも判ることだろう。 「怖じ気づいたのかい」 「そんなことはないけれどね」  嘘だ、いまだって声が震えている。  それでもそのことを指摘されるまえにわたしは月の前を立ち去った。      それにしてもため息が出る。  自分が間もなく死ぬかも知れないなんて、そんなことはあるわけがない。  それでもおどされてしまえばやっぱり怖いなあ、なんて思ってしまう。  とぼとぼ歩いていると、目の前にまたそっくりなヒトがいて。  ああ、やっぱりドッペルゲンガーなのだろうか。  そう思っているとその人は、申し訳なさそうにわたしに言った。 「ああ、そろそろかえってきてくれないかな、わたしの影」  ――言われて記憶が蘇る。  そうだ、わたしはこのひとの影法師。  言われてのろのろと手を差し出すと、わたしはするりと黒く染まって、そのまま足に縫い付けられた。  まったく、昼の月の悪戯は迷惑千万。  わたしはそう思いながら、夕焼けに染まる彼女を形どった。
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