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花火大会が終わると、余韻の闇を楽しむ間もなく、どの屋形船にも赤提灯が甦った。いつの間に数が増えたのか、川面を前後に細長く十数艘は続く、賑やかな渋滞が発生した。まるで地上の高速道路の渋滞に見られるテールランプの列のようだ。
藤浪の屋形船は埠頭まで戻るが、橋のたもとの桟橋に係留して客を下船させる乗り合い船もある。河口へ下るに連れて、一艘、また一艘と数を減らしていった。
「足元、お気を付けて」
埠頭に着くと、藤浪の護衛役の若者達が先に下り、俺達を取り囲むように誘導してくれた。
「すみません。ありがとうございます」
優華が下り、俺が続き、冴子さんが下り掛けた時だ。
桟橋をゆっくり進んでいた優華が、突然足を止めた。すぐ後ろを行く俺は、咄嗟に彼女の両肩を掴むことで何とか衝突を回避した。
「どうした、酔ったのか?」
「……譲ちゃん。あそこ――何か、浮いて……」
上気していた桃色の肌が白い。彼女は屋形船から離れた仄暗い淀みを差すも、その指先が微かに震えている。
「ちょっと待て――祐さん!」
優華が示した桟橋の陰の水中に、明らかに人の姿が見えた。
刺客か――と色めき立った俺達だったが、それはほとんど全裸の女で、俺達の姿を認めると細い腕を伸ばしてきた。
「……オネガイ……タスケテ……」
「まさか――凛花ちゃん?!」
懐中電灯で照らし出された女の容姿が見えると、震えていたはずの優華が駆け寄ってきた。
「おい、優華?!」
桟橋から身を乗り出さん勢いの彼女を、慌てて抱き止める。
「タスケテ……コロサレル……」
水中の女は血色の失せた青白い顔で必死に訴えてくる。冷えて口が回らないのか、元より日本人ではないのか――女の言葉は片言に聞こえる。
「とりあえず、水から上げましょう。おい!」
藤浪の短い指示で、若者二人掛かりで川の中から女を引き上げた。小柄で細い女は、下着だけをまとっていたが、ずぶ濡れで透けており全裸に等しかった。その肌に、みみず腫のような痕と夥しい痣が見えた。
若者の一人が、船から持ってきた毛布を女に掛けてやると、安心したのか彼女はクタリと脱力してしまった。
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