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「優華、店の従業員なのか?」
俺に抱き付いていた優華は、気絶した女の顔をジッと観察していたが、首を振った。
「――いいえ、顔はよく似ているけれど……体つきが違うわ」
川から引き上げた時点で、女の痩せた身体に違和感があった。スレンダーな女の子もいるようだが、ここまでやつれたように痩せた身体は、彼女の店では使い物になるまい。
「どうしますか。『殺される』と言ってましたね」
明らかに面倒を背負っているはずの女を見下ろし、我々は途方に暮れた。
「社長、今は――」
「お前は黙ってろ」
舞薗の言いたいことは、よく分かる。蜂に刺された男の死体が見つかったばかりのタイミングだ。これ以上の厄介事を背負い込むべきではない。舞薗の苦言は尤もである。
「祐さん、口の固い医者を知ってるんで連れて行きます。貴方は関わらない方がいい」
「譲治さん」
申し訳なさ気に頭を下げる藤浪の肩越しに、もっと深々と腰を折る舞薗が見えた。
行き掛かり上、こちらで引き取るが――女の事情に寄っては、処分も致し方ないだろう。幸い、わが社にはそのシステムがある。
「優華、送って行けなくて悪いが」
「ええ、私は大丈夫」
顔色の落ち着いた優華は、確りと頷いてみせた。
「すみません。ではせめて、お車まで運ばせます」
藤浪の返事を待たず、舞薗が若者達に指示を出す。手際良く、女の姿を隠すように別の毛布で包み込むと、大柄の若者が抱えた。
「ああ、それは有難いです。――後で連絡する」
銀のジャガーの助手席に、毛布ごと女を積んで貰う。見送る優華の唇に軽く触れた。仕方ない、今夜はこれでお預けか。
「待ってるわね」
眉尻を下げた彼女の微笑みに、頷く。藤浪達と挨拶を交わすと、愛車のアクセルを踏んだ。
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