31人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼女の容態は――動かせますか」
「点滴中だ。一晩待て。朝方なら、連れ帰っても構わん」
「ありがとうございます。出先で――少ないですが」
財布から抜き出して渡した10万円を、彼はいつもの通り数えずに胸のポケットに捩じ込む。
「充分だ」
取引が成立した。俺は長椅子から立ち上がる。
「では、明朝、引き取りに来ます」
「逃げ出す体力は無いと思うが、見張らないからな」
正面を向いたまま、横目だけでジロリと見上げてくる。彼の仕事はここまでだ、と言いたいのだろう。
頷くと、続けて一礼する。
「心得てます。――失礼します」
空いた缶を手に、李先生の診療所を後にした。
深夜の時間帯ではあったが、とある許可を求めて、ボスにメールを送った。30分も置かずに許可は下り、俺はある男にコンタクトを取った。彼の快諾を得ると、漸くスマホが掌から離れる。
「一段落付いた?」
白い革張りのソファーに身を沈めていた俺に、背後から優華の声が降る。
独り埠頭から戻っていた彼女は、拾った女を診療所に預けて来たことを伝えると、是も非もなく俺を部屋に呼んだのだ。
最初のコメントを投稿しよう!