013.花を拾った夜(2)

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 雑居ビルには飲食店も入っている。もしかすると、泥酔して服くらい脱ぐこともあるだろう。全裸になった所を、運悪く蜂の大群に襲われたのかも知れない。だが――。 「誰が、服を着せ、靴まで履かせたのか……?」  送った視線を受けると、藤浪は安堵したように口角を少し上げた。 「そう、それなんです」  彼が『妙な死体』と言ったのも頷ける。  もし死体の男が自ら脱衣したとしても、無数の痕が残る程刺されれば、痛みやショック反応で動けまい。  つまり、現場には第三者がいたことを意味している。  発見された路地裏のような屋外で、故意に特定の人物だけを蜂に襲わせるのは難しい。推測するに、殺害現場は別にある。逃げ場のない屋内で、全裸にして襲わせた後、死体の身なりを整えて、路地裏まで運んだに違いない。  一体、誰が何の目的で? 「随分手の込んだトラブルを押し付けてきたもんですな。心当たりは――」 「絞りきれないから、参ってるんです」  愚問だった。藤浪の苦笑いに、こちらも苦笑を返すしかない。 「ご心配かけてすみません。聞いていただいて気持ちが収まりました。――さぁ、まだフィナーレがあります。堪能しましょう」  不可解な厄介事を抱え、彼の心中は穏やかではなかったようだ。眉間に漏れた縦皺など氷山の一角に過ぎなかったらしい。しかし下手に不満を口にすれば、彼が望むと望まないに関わらず、誰かの責任問題に発展する。例えば、死体が転がっていたビルの警備員がクビになるとか――このくらいは序の口か。  部下に愚痴ることすら憚られる、彼が身を置くのは、そういう立場だ。だからこそ、俺のような事情を理解しつつも支障のない相手に聞いて欲しかったのだろう。  言葉通り気持ちに区切りを付けたのか、彼の眉間の曇天は漸く晴れ、天空の祭典を示して盃を空けた。  スターマインや創作花火も興をそそったが、やはり伝統的な菊花や垂れ柳は圧巻である。  祭の終焉は、大小様々な垂れ柳の乱れ打ちで締め括られた。夜空から光の糸が滝の如く流れ落ち――夏の宴は終了した。 -*-*-*-
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