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少年は腰に下げた袋から布を取り出すと、木の根元に生えていたシダのような植物を、土から出ている部分をすべて丁寧に包む。すると布がほんの少し輝き、音もなく植物が地面から離れた。少年はそれを腰に下げた別の袋にしまいこむと、乱暴に手を払った。
「ここは知り尽くしていたつもりだったけど、さっきのは見たこともなかったし、それ以上に得体が知れなかった」
“さっきの”とは、おそらく俺が接触したあの人型のことだろう。しかし得体が知れないとはどういうことなのだろうか。それも気になるが先ほどの布も気になる。あの輝きはいったい?いやそれよりも、先ほどの人型も結局魔物――?疑問が渦巻く中、一つ思い至ったことがあり、俺は慌てて池を見る。
「さっきボクが君に驚いてる間に姿を隠しちゃった。実は無害だったのかも……なんて」
冗談めかして少年が言う。その言葉通り、池は鏡面のように凪いでいた。
「お、怒らせたりしてないかな」
少し怯えながら俺が言うと、少年は鈴のように笑う。
「もし怒ってたらとっくの昔に二人して池の底じゃないかなあ?いくらでもチャンスはあったし」
俺は少し嫌な気持ちを抱く。こいつ実は結構性格悪いんじゃなかろうか。類は友を呼ぶとでも言いたいのだろうか。渋面が馬面でも伝わったのか、はたまた鼻でも鳴ってしまったのかはわからないが、少年が肩をすくめて口を開く。
「少なくとも今は何ともないし、これ以上刺激しなければきっと大丈夫だよ。ただ、これからはここが採取ポイントとして使えないのはちょっと痛手だなあ。別のところも細かく探さないと」
「この森を知り尽くしてるんじゃなかったの?」
「人の行ける範囲でね。近くの町に住んでるから、子供のころから遊び場みたいなものだったし」
何の気なしに聞いた言葉に唇を尖らせたり、最初に剣を構えた時の、覇気を発していた人物とはもはや別人だ。ここにきてようやく、俺の中にまだ少しわだかまっていた警戒心が解けていくのを感じた。
「ごめん。ちょっと意地が悪かった」
俺が謝ると、少年は驚いて目を見開く。それから、今まで以上に優しく微笑んだ。
「ううん。気にしてない。……さて、そろそろボクは帰ろうと思うんだけど、ユウくんはこれからどうするつもりなの?」
俺は言葉に詰まってしまった。人間に戻りたい、家に帰りたい。寂しさが今になって鎌首をもたげてくる。
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