α-2 ウィリン領

1/13
前へ
/50ページ
次へ

α-2 ウィリン領

 一人の少年と、一匹の白い馬が、舗装された道を横並びで歩いている。少年は、腰のベルトにいくつかの袋と一振りの剣を佩き、白い馬は、神々しいまでの威圧感を湛えるその角を、額に冠している。  ……言わずもがな、俺とロックのことだ。なぜこんな詩人じみた実況をしているかといえば。暇だからである。何もないからである。辺り一面うららかな日差しと小高い丘とそよ風だけだからである。ぶっちゃけ飽きたのである。 (帰ってゲームしたい……)  半ばグロッキーになりながらも足は止めない。町に向かっているのだ。何もないここよりは何かあるだろう。  しかし、先ほどから何もない、何もないと言ってはいるが“何もなかった”わけでもない。  森を出る前に、ロックの荷物を俺に乗せようと、ロックが俺に触れたとき、ものすごい不快感と敵意に襲われ、それを無理に我慢して警告を発した。しかしその結果、激しいめまいに襲われて俺は一度気を失ったのだ。  正直に言えば、そこから目を覚ました時に自宅のソファにいる可能性も考えたが、淡い期待は露と消えた。意識が戻ったときに真っ先に感じたのは、土と木々の涼やかな香りだった。  最悪だったのは、俺が意識を失った後横倒しになってしまっていたことだ。体の側面にものすごい負荷がかかるわ起き上がれないわで悲惨な目に遭った。偶然その近くの樹に住んでいた魔物の助けを受けて起き上がることができたのは、幸運でしかない。  ロックはビビり通しだったが、図鑑でみた温和な魔物と姿が一致したらしく、俺と共に起こしてもらうのをお願いしていた。  その姿からの予想通りというか、ドライアドという魔物らしい。森の樹に住まい、住んだ樹と同じ材質の肌、同じ材質の葉っぱの髪の毛をしている。光合成をしては樹に引っ込んで栄養を与える存在で、樹にとっての座敷わらしのようだ。ただ、ドライアド自身が何を栄養としているか、など詳しいことはまだまだ不明なのだとか。  俺を起こす時に、その手を根のように伸ばして俺に巻き付けて引き上げてくれたが、何かを吸われたり刺されたりという感覚はなかったので、生物の生き血が主食というわけでもないようだった。  そんなこんなで、森を出て歩き始めてから体感三時間が経過した。実際はもっと短いかもしれない。お互いあまり喋る方ではなかったのが災いし、退屈ポイントがK点を超えて観客席まで―― 「あ、見えてきたよ!」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加