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突然、隣を並んで歩いていたロックが声を上げた。俺が弾かれたように顔をあげると、視界に確かに建造物が入っていた。俺はわずかに首を回し、片目で全景を捉えてみた。
「なんだこりゃ……」
ビルだ。ビルが建っている。幾度か瞬きを繰り返しても、背の高いビルが何本かしっかり建造されている。それだけではない。ここから見える住居と思しき建造物も、およそ俺が見慣れた建築様式……言うなれば、“現代の”建造物そのものだった。
森、巨大な池、緑の丘と自然に囲まれたところから、突然断絶された様に現れた都会に、俺は困惑と、ほのかな失望を抱いていた。
「おいでませウィリン領へ――なんちゃって。一応あの森もここの領土なんだけどね」
(ウィリン?あれ、最近聞いた様な?)
引っかかりを覚えて首を傾げている間に、ロックがとことこと先を歩いていく。慌てて後を追いかけていくと、土から、コンクリート(のように見える)に道が変わっている。ここから先が町の中だということなのだろう。ファンタジーやらでよく見る、大きな門や衛兵の姿もなく、味気なく思いながら足を踏み入れた。
――蹄から想像とは違い、柔らかい感触が返ってくる。よく見ると、道が蹄の形にわずかに沈んでおり、足をあげると元どおりになっている様だった。変に沈み込む様な感覚もなく、足も痛くない。
「おお!これすごいな!」
「え?……何が?」
しばらく首を巡らせていたロックだったが、俺が楽しく足踏みをしていることに気がついた様だった。
「ひょっとして道のこと?こんなの普通じゃない?君の住んでたところは違ったの?」
「え!?あ、えーと」
しまった。どうやら常識だったらしい。だが幸いにも妙な勘ぐりや疑いの目は向けられていない。ならば、元居た世界の話をしても怪しまれはしないだろう。俺の話の信憑性には繋がらないはずだ。
「……うん。もっとガチガチに硬くてさ、うっかり転んだら大人でも危なかったんだ」
「そうなんだ。そんなところがあったなんて知らなかった」
ひどいでしょ、と相槌をうって、俺はロックと横並びに歩き始める。ロックは口元を覆いながら、小声で何事かぼやいていた。どうやらあれは癖らしい。
「ロックツェ様!」
ふいに、横合いから声がかかった。俺とロックが立ち止まる。すると――
「ヒッ!ま、魔物!?」
どこかで聞いたようなリアクションが起こった。
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