α-2 ウィリン領

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「ロックツェ様、お下がりを!こいつは我々が!」  言いざま、剣を抜き放つ鎧の男たち。再び剣を向けられたことへのストレスもあったが、となりでロックがずいぶんと余裕――というより、呆れた態度をとっていたので、最初に比べればかなり気持ちは楽だった。 (君もあれくらいビビってたんですよ、とは言わないでおこう) 「ロックツェ様!」 「喚くな。聞こえている」  随分と威厳のある声でロックが言う。先ほどまで魔物にへっぴり腰だった分、そのギャップが滑稽に映り、次第に笑いをこらえるのに必死になっていった。馬面だからたぶんばれないだろう。  それにしても本当に偉そうに喋るな、ともはや他人事に感じながら眺めていると、「あれは私の友人、いや友馬か……?」とか「魔物は危険だがあいつは違う」と説得をしてくれている声が耳に入った。  さすがに庇ってもらってばかりでは居心地も悪い。 「俺もロックも、お互いに助け合ってここまで来たんだ。怪しい者……馬?ではないよ」  効果は劇的だった。剣を俺に向ける者、突然聞こえた声を何と勘違いしたのか空を見上げる者、泡を吹いて倒れた者。多種多様なリアクションが一度に起きた。 「……すまん。ここまでとは」  惨状を目の当たりにして、目頭を揉んでいるロックに謝る。友好的に進めるには言葉が一番だと思ったんだが。 「正直ボクも、衝撃度合いで言えばこの人らと大差なかったんだけどね」  ロックが一つ咳払いする。まだまともな鎧の男たちが居住まいを正した。俺もつられて足踏みをする。 「この者の名はユウ。今の通り、言葉で意思の疎通が図れる前代未聞の魔物だ。しかしながら、彼は私に対し非常に友好的であり、私もまた友となることを望み、ここまで連れてきたのだ。異論のあるものは前へ出よ!」  ほーう、すごいもんだ。俺と会って初っ端殺気を向けてきた部分がすっぽり抜けている。これが真実と求められる答えの違いってやつか。  しかし大筋として間違っているわけでもないので、ヤジは心の中にとどめておく。  鎧の男たちは、渋々といった様子で警戒態勢を解く。できれば俺の人となりならぬ、馬となりを見て決めてほしかったが、無いものねだりをするわけにもいかない。 (はじめから人の姿だったら、ここまで回りくどく無かったろうに、どうしてこんなことに――)  心に、ほんの少しの靄がかかった。
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