1人が本棚に入れています
本棚に追加
鎧の男たちは、この町の自警団だった。そのうちの一人に先導してもらいながら、俺たちは図書館を目指している。図書館、と銘打ってはいるが、ほとんどロックの私設書庫らしい。
俺は、今までのやりとりで疑問に思っていたことを口にした。
「ロック、お前やけに好待遇だけど、なんでだ?」
「え!?」
ロックが立ち止まってこちらを見る。その顔は驚愕で彩られていた。
「え?またなんか変なこと言った?」
「え?え?そうじゃなくて、その、ボクのフルネームわかる?」
――うろ覚えだ。確か、確か、えーと。
「カ……ガルル、ガルルカ・ロックツェ……えー、ロックツェ・ウィリ、ン」
「……う、ん。うん。すごくたどたどしいのが気になるけど、そうだね。ボクはガルルカ・ロックツェ・ウィリンだよ。じゃあ、ここの領地の名前は?」
まだ聞くか!?俺は焦り狂い、全身から汗を噴出しながら記憶を探る。確か町に踏み込む前に何か名前を言っていたのは覚えている。何故だか聞き覚えのある名前で……あ。
「ウィリン領……?あ、じゃあ君、領主様だったの!?」
「次男坊だけど……まあ、そういうこと」
「え、あっ。そうだったの!?」
「逆に何だと思ってたのか聞いてもいいかな!?」
「だってお前、町で一番腕が立つって言ってたから、さっきの人たちの隊長かなとか思ってた……」
しかし気付いてみると、ずいぶん的外れな勘違いをしていたことを自覚する。かなり恥ずかしい。
ロックは、俺の答えになるほどと返すと口を手で覆い隠した。やがて手を離すと、ロックは苦笑する。
「そんなにそれらしくなかったのかなあ」
「いきなりかっこつけ始めたなとしか思ってなかった」
「うわ、ひっどいんだ」
ふと見ると、自警団の男性がにやにや笑いながらこちらを見ている。俺もロックも、気恥ずかしくなって再び歩き出した。
「いやいや、本当、ユウ様には感謝しかありませんて。ただでさえロックツェ様はご友人が少なくてですね」
「友達少ないのかお前…」
「余計なことは言わんでいい!」
今の口調は幾分か厳めしいが、それでもロックの根の部分は変わらない。友人が少ないなど、ただ人との出会いが少ないだけの問題なんだろう。なんとなく、俺はロックを羨ましく思う。
「給金減らされたいのか?」
「オーッ!そいつは困ります!」
二人と一匹の笑い声が街道に響く。
最初のコメントを投稿しよう!