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それからしばらく歩くと、太陽の光を受けて輝く建造物が目に入った。俺とロックはここまで案内してくれた自警団の男性に礼を告げる。それから、俺は改めてその建造物に意識を向けた。
ガラス張りの博物館。一目見ただけでそんな風に見える。俺は違和感よりも恐怖がこみあげてくるのを感じた。
町並みも、俺が生まれ育った町のように見慣れた景色で、はじめは安心があったのだが。ここまで酷似して来ると、何か悪質ないたずらなのではないかとすら思えてくる。
(どこからどう見てもガラスだよな)
近くまで寄って見てみても、俺の知っているガラスそのものだった。奥を見通せて、光の反射で薄っすらと俺の姿を投影している。ガラス越しの白い魔物は、ずいぶんと頼りなく思えた。
「どうしたの?中に入ろうよ」
建物に近寄ったまま惚けている俺が気になったようで、ロックが声をかけてきた。
俺は了解の意を示すと、不安を振り払うように鼻を鳴らした。この身体になってから、何は無くとも鼻を鳴らすのが楽しくなってきている自分がいる。
それでも、広い視界に映る純白の身体が、今は少し鬱陶しかった。
入り口には、マット大の人工芝のようなものが置かれていた。おそらくは靴の泥落としなのだろう。こういうところまで俺のいた世界と変わりないのは、いったい何故なのだろうか。
ロックは特に足を擦り付けるでもなく,人工芝のマットを通り過ぎる。俺もそれに倣い、足を踏み込んだ。
「うひょわっ!」
同時に足がものすごくこそばゆく感じた。蹄を何かに這いまわられているのだが、足の指の間を綿毛でくすぐられているような絶妙なこそばゆさだった。
ロックが心配そうにこちらを見ているので、なんでもないと告げる。
(たぶん泥を落としてくれてるんだろうなあ……。靴なら便利なんだろうけど、今の俺素足みたいなものだし)
くすぐったい感覚はもう無くなっていたので、掃除も終わったのだろう。ほっとしながらロックに追従して――
「んぎぃ!」
後ろ足もあったんだった。
「……ちょっと、大丈夫?」
「お、思ったよりっ!んひぃ!こそばゆいっ!」
ロックが何とも言えぬ表情になる。やめろ。そんな目で俺を見るな。俺にそんな趣味はない。軽く悪態をつきながら俺は芝マットから足を抜く。
「えっと、とりあえずユウ君について図鑑で調べようかと思ってます」
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