α-2 ウィリン領

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 なぜか敬語になっているロックをじろっとにらみつつ、会話の転換を図る。 「図鑑がここにあるのか?」 「うん。ボクが見てきた図鑑ってここの、ボクの書庫での話だから」 「なるほどなー」  考えてみれば当然か。町に同行する話になったときに、町の書庫にある図鑑を見て調べてみようと提案されたことと、ドライアドに助けてもらったときに、図鑑で見たと言っていたこと。よく行く書庫であるわけなのだから、自分で所有している書庫である可能性は非常に高いわけだ。 (まさかこんな博物館じみた大きさとは思わなかったけども。これで“書庫”って言われるとは思わないよなあ。もう図書館だぜこれ)  いやしかし領主ともなるとこれくらい当然なのかもしれないなどと考えているうちに、ロックは黒曜石のような質感の何かを操作していた。地面からせりだし、八部のところで45度を描いて建っているそれは、ロックの胸元まで程の高さだった。俺は看板とばかり思っていたが、そういえばここは個人書庫だ。となると、今までの景観から鑑みて、あれはひょっとして注文のタブレットのようなものにあたるのではないだろうか。 「ロックは何をしてるんだ?それで図鑑持ってきてもらえるのか?」 「そうだよ。ちょっと待ってね、全部持ってきてもらわないとだから……」  ロックがこちらに顔を向けずに答えてくれる。  ふーむ。やっぱりそういうものなのか。なんとなくアナクロな注文方法――例えば執事さんに言うとか――を少し期待していたりもしたのだが。  剣や魔物がいるというだけで、実は存外元居た世界に近いのかもしれない。先ほどまでは、知っているものばかりを見ては落胆していたが、いざこうやって落ち着いて考えてみると、その事実は非常にありがたく思えた。ある程度の勝手が類似しているのであれば、己の知恵だけで乗り切ることも不可能ではなくなったのだ。  気持ちがまた少し軽くなって、ブルブルと機嫌よく鼻を鳴らしていると、ロックが伸びをしながらため息をついた。 「あー、思ったより疲れた」 「なんでさ。端末を操作してただけでしょ?」 「いや、15冊くらいあるんだけどさ。きちんと項目整理してなかったのがあだになった……」  俺たちは顔を見合わせて苦笑する。 「待って。15冊もあるの!?」 「図鑑自体は3、4冊だよ。ユウ君にかけられた呪術用のがほとんどさ」
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