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「え、あ、そうか」
そうだった。そういえば自分の置かれた状況のことをすっかり忘れていた。いや覚えていたし、なんだったらさっき改善されたと喜んでいたくらいだったのだが。ここに来た目的が、いつの間にか頭の中で“自分の種族について調べること”にすり替わってしまっていた。
「ちょっと、ユウ君が忘れてどうするのさ」
「ごめん」
ニヤッと笑って、ロックが腰に下げた袋を一つ外して机に置いた。記憶が確かなら、あれは毒草を入れた袋だ。
「そういえばその毒草、どうするんだ?煎じて薬にするって言ってたけど」
「あー、まあ気にしないで」
なんだか歯切れが悪い。先ほどまで説明をきちんとしてくれていただけに、余計に気になってしまった。だが、口を開く前に俺の視界に別の何かが侵入した。咄嗟に振り向いて距離を取る。
……すぐに緊張を解いたが、ロックはカラカラと笑っている。こいつ、タイミングわかっててぼかしたんじゃないのか?
ずっと入り口にいた俺たちの前に現れたのは3人の女性だった。裾の長い、黒い給仕服に白いエプロンのツートンカラーが良く映えている。3人共に金髪で、似通った顔立ちだったが、その髪の毛をそれぞれ、ショートボブ、サイドテール、三つ編みにしていた。1人5冊ずつ分厚い書物を抱え、微動だにせず立っている。
「ありがとう。そこの机に置いてくれ」
ロックは先ほど袋を置いた机を指し示す。女性たちは黙って書物を運んでいく。ふと、俺は妙な音を聞き取った。カチカチカチと、何かをこすり合わせているような、金属の甲高い音。
まさかと思って彼女たちを観察していると、一番近い女性が肘を伸ばした時、今度ははっきりとモーターのようなわずかな駆動音を聞き取れた。
「ユウ君の耳ってそんなに立つんだね」
ロックにそのまま顔を向けると、おかしそうにクスクスと笑う。
「この人たちから音がするから、何だろうと思って」
「あー、機械人形は見たことないとわからないよね」
「じゃあ、この人たち、本当に機械なのか」
「うん。彼女たちは紛れもなく機械だよ。せっかくだ、3人とも。彼はボクの友人のユウ君だ。覚えておいてほしい」
「え?」
一斉に視線がこちらに向いた。一切の予備動作も無駄もなく、無機質な瞳がこちらに向けられ、俺は完全に肝が冷えてしまった。心で、彼女たちが機械なのだとはっきり認識できた。
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