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ロックはそんな俺の苦悩などこれっぽっちも気づかずにページをめくっていく。調子よく紙のめくれる音が響いていたが、あるページでわずかに手が止まった。
「これ……」
「あ、あの池のヤツかな」
それは俺とロックが森の中で初めて出会ったときに見た、水の人型。挿絵が一つしか存在せず、その下に書かれた文字も、他のものより明らかに少なかった。
「もう少し観察するべきだったかなあ」
ロックがぼやく。野暮なツッコミはすまい。ビビって斬りかかったの君じゃん、とか。そもそも観察する暇すらなかったじゃん、とか。言うまいて。
ロックも特に何か引っかかったわけでもないらしく、再び紙と紙の擦れる小気味のいい音が、リズムよく流れる。
「おっ」
先に反応したのは俺だった。そのページには、いくつかの挿絵があった。描かれているのは、角の生えた……黄金の馬。
「うん、これだ。やっぱりこれで見てたんだ。保険で持ってきてもらったけど無駄になっちゃったかな」
「色が違うッスけどぉ……」
俺としてはちょっとばかり不服である。これほどまでに細やかな挿絵なのだから、純白の姿、つまり“ほぼ”自画像を見ることができるのではないかと、少し期待していたのだ。
とはいえ俺の種族的な見方で言うならこれで知識を得るには十分だろう。俺はロックに説明文(らしき文字列)を読んでもらうことにした。
「ちょっと待ってね。正面から見た姿――はこれは挿絵の説明文だ。こっちじゃなくて……あった。種族名、魔角馬。遭遇例は少なくはないが、生態は不明?何でだ?……性格が極めて狂暴であり、遭遇した際の生存率が低いことが理由。しかしながら、人の生息域までは姿を現すことはないため、実害はほぼ無い。また、その鬣は万物を癒すと言われている」
ロックが片眉を上げてこちらを見る。俺も鼻を鳴らした。
「ちっともわからん」
「ほんとだね。ちょっと期待外れだったなあ。もう少し詳しく書いてあった気がしたんだけど。ユウ君はまるで狂暴じゃないし、そもそも意思疎通ができるなんて」
「俺はもともと人間だから、他もそうとは限らないだろ」
ロックは「あ、そっか」と納得しているが、俺には新たな疑問が頭に降りてきていた。
(魔角、馬?一角馬じゃない……?しかし……)
俺の考えが当たっているなら、おそらくは。
「一つ質問があるんだけど」
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