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「なんだい?」
顔を向けてきたロックに、俺はひょっとしてと切り出した。
「その図鑑の挿絵を描いたのは男性?」
ロックはわずかに目を見開いた。そして間髪入れずに頷く。
「そうだね。ユウ君、結構目利きだったりするの?」
「いや、そうじゃない。状況的に……俺の知っている状況的には、男性の確率が高いなと思ってさ」
俺はロックに、森で荷物を載せようとしたときの顛末を思い出すように促した。ロックが口に出しながら記憶をたどっているところに、俺は俺自身の体感の記憶を補足していく。
「あの時、倒れる前に警告したろ?」
「確かに。その直後に横倒しに倒れたものだからびっくりしたよ」
「実はな、俺あのタイミングで警告を発せたの、ほとんど奇跡だったんだよ」
「え!?」
ぎくり、と大袈裟に身を引くロック。俺は苦笑した。
「ロックに触れられた直後……とてつもない不快感に襲われたんだ。口を開くことさえ億劫なくらい、ただ暴れまわって身体の中の不快感を追い出したい、って。そんな考えで頭がいっぱいでさ。必死だったとはいえ咄嗟に声を出せて本当によかったよ」
「そんなにひどい状況だったのか」
ロックは目を白黒させると、口を手で覆い隠す。もごもごと何事か聞き取れないほど小さな声で呟いた後、手を降ろしてこちらを見る。
「図鑑製作者は確かに男性だ。というより、女性で仕事をしている人物なんて権力者くらいのものだと思うよ」
今度は俺が目を白黒させる番だった。
「それはまた――どうして?」
「……え」
ロックが怪訝そうな表情に変わる。それを見て俺は身体中にじっとりと嫌な汗が浮かぶのを感じていた。こんなところに“常識爆弾”が転がってるだなんて思わないだろ普通!女性軽視が当たり前なら、何言ってんだコイツって思われる程度で済むと思ってたのに。いや、そういう反応なのだろうか?
そんな風に内心大混乱を起こしている俺を尻目に、ロックは腕を組むとおもむろに口を開いた。
「その、さ。言いづらいことかもしれないことかもしれないけど、聞いていいかな」
「な、何でしょうか」
ロックはまた少し迷う様な素振りを見せる。俺が緊張と混乱で焦れてきたところで、ようやくロックが意を決したように言葉を発した。
「ひょっとしてユウ君って孤児だったりしたのかな!?」
……どういう思考をしたのか追った方がよさそうだ。
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