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そもそも、俺はあの異常なまでの不快感が、「それは女性でも起こりえる現象」なのかを検証したかったのだが、いったい何がどう捻くれて俺が孤児なんてことになるのだろうか。
「えーと、それはまた一体何故……?どういう思考を経て至った結論なの?」
「あ、あれ、違った?だって劣神ゲダルの誓約を知らないなんて思わなかったから」
「れっしんげるだ?」
「ゲダルだよ。んんー?どうして知らないの?」
ロックの態度も表情も言葉も純粋に疑問に思って質問しているのだが、今の俺には一つ一つが冷たい刃のように心に突き刺さる。そのたびに心臓は縮み上がり、発熱し、口の中がカラカラに乾いていく。下手に話せばそれだけ墓穴を掘る気がする。半ばヒートアップした脳のまま、俺は誤魔化すことにした。
「え、えーとまあ、ロックの言う通り孤児だったよ俺は。うん、そのいきなり……いきなりだったから咄嗟、咄嗟……ああ、ええと、驚いちゃった。ハハ」
しどろもどろではあるが「孤児である」嘘を通す方向に固めた俺は、次第に落ち着きを取り戻していった。言い訳はある程度思いついた。下手に話すよりは、無知であることを孤児という設定を活かせばある程度説得力を持たせられるはずだ。
「あ、なんだやっぱりそうだったんだ!あれ、でも家に帰りたいって言ってたよね。一人暮らししてたの?」
「ま、まあそんなところ。小さいころから一人だったから本もまともに読まなくてさ」
納得したように頷くロック。なんとか危機は逸らせた、のだろうか。冷静に考えると割と無理がある気がする。しかし言ってしまった以上引っ込めるわけにもいかない。「事実そうだった」でゴリ押しする他ないだろう。
「それで、ゲル……ゲダルの誓約って?」
「創界神話の一番有名な話だよ」
ロックはそう前置きすると、朗々と語り始めた。
「そこには、空と山が存在した。空には空の、山には山の世界があった。ある時、空と山それぞれから代表者が選ばれ、お互いの領域で交換することが決まった。しかし、それは死出の旅であり、双方ともにその世界で最も嫌われたものが相手の世界に行くこととなった。そんな中、空に憧れた山の世界の娘、ゲダルがいた。ゲダルは、この機会を逃してはならないと決意した――」
ロックが紡ぐ言の葉に、俺はいつしか吸い込まれるように聞き入っていった。
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