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その神話は、俺の元居た世界の神話とは何かが違った。山の世界の娘ゲダルを、俺はとても身近に感じたのだ。話の中に無茶がないというわけではない。怒りに任せて城塞一つを吹っ飛ばしたのが実は山と空、双方の世界で慈愛を司る神だったとか、インド神話的なぶっとび加減を感じる。
ただ、それでも、俺は確かにゲダルの息吹を感じたのだ。どう感じたのかと問われれば、もうそう答えるほかない。ゲダルは確かにこの世界が始まる前、創世記と呼ばれる時代に生きていた。神話、よりは、そのゲダルと共に歩んだものが旅の道すがら綴った日記のような。
他に主役はいない。ただただゲダルを讃え、綴っているのに、誰かがそこにいる気がして。ふと気が付けば、ロックが今まさに語り終えるところだった。
「かくして、ゲダルの命は大地に降り注ぎ、今も我々を見守っているのです」
「おおー」
前足が馬脚じゃなければ拍手していたところだ。実に口惜しい。代わりに鼻をブルブル鳴らす。
「でも割と唐突に話が終わるんだね?」
「…やっぱり、初めて聞いてもそう思うんだ……」
「初見云々の話ではないと思うぞ」
「んー…」
ロックが口元を覆い隠す。正直、最後のオチは何とも肩透かしだ。ゲダルが命となって降り注ぐ、それはいい。だがいきさつがない。山の世界の娘として空の世界での責務を果たし、両世界に忍び寄る災厄を祓った。ゲダルの提案によって、二つの世界は一つとなり、ゲダルは友と安らかな眠りにつき、二つの世界を監視する防人となった。その矢先、命が大地へと還されている。ある種の神格化とも捉えることもできるかもしれないが、それでも。
「まあこういったお話の編纂や考察って宮廷の星術師の仕事だから、どこかで政治的な添削でも受けたんじゃないかな」
ロックはおどけてそんなことを言う。
「なんだそりゃ」
半笑いで問い返しても、ロックはただ肩をすくめるばかりだった。
「ところで、セイジュツシ?って何だ?」
「星で吉兆を占うつまらない人間」
今までにないほどの剣呑さでロックが返答してくれる。今度はいったい何だ。
「いやまあ、ちょっとね」
俺の怪訝そうな表情が読めたわけではないだろうが、ロックはそう繋げる。それ以降ロックは、神話についても、星術師についても、特に触れようとはしなかった。
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