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α-2 ウィリン領-2
目が、覚める。いや、正確にはほとんど寝てはいない。この身体になってから初めての睡眠で不安だらけだったが、意外とどうにかなるものだ。特に驚いたのは、ただじっと突っ立っているだけでも疲労が回復していくのを実感したことだろうか。
なんというか、こう、膝を柔らかいクッションに引っかけるような形でのんびりと立っているのだが、それがものすごく楽な体勢なのだ。途切れ途切れに起きては寝て、起きては寝てを繰り返し、時に自分から横たわってもみた。起き上がるのに苦労したが、練習を重ねていくうちに、何ともなく横たわった状態から起き上がれるようになったのは一番の成果だろう。
遠くから、鈴の音のような不思議な音が響いてくる。近づいたり遠ざかったりしているそれは、どうやら空から聞こえてきていた。
俺はその正体が気になって、厩舎――ロックのこれまた豪邸な自宅の庭にあった。他の先住馬がいたが、威嚇されるようなこともなかった――から顔だけを出してみる。何か見たこともない形の有翼種の生物が、空を飛び回ってそんな音を立てていた。
「鳥かなあ。鳥っぽいなあ」
朝露に濡れ、すっきりとした空気が鼻腔をくすぐる。見れば、山岳から、異様な光量が顔を覗かせてきていた。かなりまぶしい。
「ちょっと異様だと余計に怖いんだよなあ」
ぼやきながら再び頭を引っ込める。そう、あれは間違いなく異様だ。太陽ではなく、この世界――ひょっとしたら地域――ではマナスと呼ばれているらしい。あれの光量は常に一定だ。初めての夜、先ほどまで明るかった空が、突然真っ暗になったときは正直かなり驚いた。あれは遮蔽物によって光量の制限、阻害はされるが、角度による制限や阻害がない。
ひょっとしたら、だが。この世界が実は平面である、なんて話もありえてしまうのかもしれない。重力があるから、そんなことはないと思うのだけれど。あまり自身は持てない。俺の姿が人間のままだったら、真っ向から否定しただろうし。
俺は蹄を見下ろす。マナスの光を反射してつやつやと輝いていて、いつまでも眺めていられそうだ。
「腹減ったな…」
そういえば昨日から水以外何も口にしていない。しかし、人間のうちに食べた最後の食事がゲテモノだったことが実に悔やまれる。この姿になってから、食欲がなかったわけではない。ただ、自分が「何を食べるべきか」いまだに悩んでいたのだ。
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